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実務弁護士のつぶやきLAW

Japanese / English

 「もともと「科学の知識」を正しく理解することが非常に苦手な人が、裁判官などの法律家になります。極端な話、理系の知識0でも、(特に私立系の)法学部やロースクールに入学することは、不可能ではありません。また,多くの司法試験受験生は、法律の勉強をしている間に、理系の知識は限りなく0に近づきます。ですから、裁判官などの法律家が「科学の知識」を正しく理解することは到底不可能だと思います。
 私たち法律家は、「科学」に関しては素人です。
 裁判官が判決を書く際に、重視しているのは、「科学的に正しいか否か」ということではないように思います。
 また、どちらの主張が合理的・論理的かという観点からだけの判断でもないように思います。
 特に、裁判官は普通は「科学」という部分については素人なので、自分の思い込みや時には直感をもとに判断した上で、自分の考え方に都合のいい方の科学的意見を採用し、他方の見解は適当な理屈をつけて捨て去るほかありません。
 その際、裁判官が注意することは、自分の判断が上級審で覆される可能性があるか否か、覆されても一応の弁解ができる程度の根拠(科学的にみえるものであれば、同じ専門家の目からみていかにトロイのものでも、いいのです)があったと弁明できるか否か、という点がメインのように思います。

 そういうわけで、多くの「科学的論点」を含む民事訴訟(時には刑事訴訟も)は、いかに「科学的にみせかけるか」、「肩書きだけの権威付け」が決め手になってしまいます。
 現実には、当事者双方から、一応の「科学者」の肩書きをもつ方の意見書が登場することがあるので、相反する意見書が双方から提出されて、一見しただけでは優劣が付けがたい場合、裁判官は、判決による社会的影響が少なく,無難な方を選んで勝たせているように思います。
 例えば、職権で鑑定が採用されていれば、その鑑定の結論がいかに科学的・医学的に間違っていても、その鑑定結果に従う限り,裁判官が責任を問われることはありえませんので、裁判官にとっては無難です。医療過誤訴訟であれば,患者側を負けさせた方が,通常は無難ですし,医療界全体に判決が及ぼす影響は少ないでしょう。公害訴訟・行政訴訟では,訴えた住民側を負けさせた方が社会的影響が少なく,無難なことが多いでしょう。
 
 こうした裁判所の判断を牽制させる有効な手立ての一つは、マスコミの活用であることがあります。しかし、マスコミも、やはり、あまり社会的な影響が大きいことは好まない傾向があるかもしれません。

 「科学」にもいろんなものがあるとは思うのですが、まずは、科学者証人が複数出廷したような、科学的な論点が争点になった判決を、いくつか取り上げて、多様な研究者が、判決を分析し、論評する、どんなことを裁判所は判断すべきだったのか(争点は何だったのか)、その事実認定はどうだったのか、などを、できるだけ、素人にも解り易く解説して、公表するといった活動もあるでしょう(言うなれば、科学判例の評論集など)。
  そうすることで、裁判所の中で行われている法律家による「科学」の議論と、それが社会に波及していく様子を、社会も、科学技術の専門家達も広く共有・議論できるようになるのではないでしょうか。
 できれば、年1回か2回、シリーズものとして出版していくとよいかもしれません。

  裁判の結論の科学的妥当性を、科学技術の専門家の立場から論評する書物は、これまで殆どなかったでしょうし、出版すれば、裁判所は必ず注目すると思います。

 このプロジェクトでは、そうした活動の先陣となれるだけの人材が集まっていると思います。

  このような活動などがなされることにより、科学的な争点がある裁判が、今よりも、よりよいものになることを切に願っています。」
(愛知県弁護士会 北口雅章弁護士)

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